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中小企業が経産省「SDGs経営ガイド」を使いこなすための読み方・方法【ワークシート付】

中小企業が経産省「SDGs経営ガイド」を使いこなすための読み方・方法

こんにちわ。ソーシャルビジネスを日本に広めたい南(@minami_shiroInc)です。

経済産業省が2019年5月に発表した「SDGs経営ガイド」。

本ガイドは、経済産業省において立ち上がった「SDGs経営/ESG投資研究会」で、日本企業がSDGsを本業として経営に統合させるために議論されてきたエッセンスが凝縮されている。

SDGsを経営に統合したいと考えているが、どうやって統合させていけばいいのか、具体的に何をしていけばいいのか分からない経営者や担当者にとって有意義な示唆を与えてくれているのがSDGs経営ガイドだ。

本当に多くの方が尽力して作り上げたのだと感じられる、すばらしすぎる資料である。

ただSDGs経営ガイドを読むだけでは、SDGsを経営に統合させられるわけではない。

そこで、本記事では、SDGs経営ガイド内の抑えておいた方がいいポイントを解説しつつ、SDGs経営ガイドを使いこなすための読み方・ワークを紹介している。

ワークシートを無料公開しているので、自由にご活用していただければ幸いである

これからSDGsを経営に統合しようとしている中小企業の経営者や担当者のお役に立てることを願う。

それでは、一つずつ解説していく。

「SDGs経営ガイド」のアジェンダ

まずはざっくりSDGs経営ガイドにどういった内容が書かれているか流し読みしてほしい。

◆Part1.SDGs-価値の源泉

  • 企業にとってのSDGs
    • SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
    • SDGsは「未来志向」のツール
    • SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
    • 日本企業の理念とSDGs
    • ベンチャー企業とSDGs
  • 投資家にとってのSDGs―SDGs経営とESG投資―
    • 投資家を取り巻く環境変化
    • 長期的な企業価値の評価とSDGs
    • SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
  • マルチステークホルダーとの「懸け橋」
    • 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
    • SDGsと従業員/消費者
    • 「知の総体」としての大学の役割
    • 「連携」はSDGs経営の重要なカギ

◆Part2.SDGs経営の実践

  • 社会課題解決と経済合理性
    • 経済合理性を見出し、新たな市場を取りに行く
  • 重要課題(マテリアリティ)の特定
    • 重要課題を特定し、資源を投入する
  • イノベーションの創発
    • 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
    • 経営者自身が新規事業をリードする
  • 「科学的・論理的」な検証・効果
    • 「科学的・論理的」な検証・評価を徹底する/させる
    • 国際標準を、積極的に活用する
  • 長期視点を担保する経営システム
    • SDGs経営を「仕組み」で持続させる
  • 「価値創造ストーリー」としての発信
    • 「価値創造ストーリー」を描き、発信する
    • 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
    • 的確に伝え、対話し、更なる価値創造へ

何となくどのような内容が書かれているかご理解いただけただろうか

まだ世界的に「SDGsを経営に統合する方法は何か」と「ESG投資の視点からどう取り組みを評価すればいいか」の2つの課題に対する明確な答えはない。

世界中のステークホルダーが模索中なのだ。しかし、日本のように、政府・先進的な企業・大学などのステークホルダーが連携して、SDGs経営に関する資料を作成しているのは世界でも稀なようだ。

WBCSDのピーター・バッカー代表は日本のこのような取り組みに対して、以下のようなコメントを残している(*1)。

本研究会のような場を通じた連携は極めて重要となる。自分は世界のどこに行っても、日本を例として必ず紹介する。総理とビジネスリーダーとの間でSDGsに関するラウンドテーブル(SDGs推進円卓会議)が行われることは世界でも珍しい。また、このSDGsとESGを掛け合わせた研究会も、世界的にまれな進んだ取組である。

なぜ経済産業省は「SDGs経営ガイド」を作成したのか

どうしてSDGs経営ガイドが創られたのか?

世界の国や企業への評価軸が「社会問題・環境問題などのサステナビリティ課題に対してどれだけ貢献しているか」にシフトチェンジしつつあることが背景にある。

また、世界で企業がSDGsを経営に統合することでESG投資をうけるために動いている。世界的な流れもあり、日本でも大手企業・ベンチャー企業がSDGsを経営に統合させて企業価値を高めるべく動きはじめていることも挙げられる

冒頭でも述べたように、「SDGsを経営に統合する方法」を世界中のプレイヤーが模索している。SDGs経営(ビジネス)の明確な答えはないものの、経営戦略・マーケティング戦略の立案・実施で必要となるノウハウを応用させつつ、日本にナレッジがたまりつつあると考えている。

国内外のナレッジを踏まえつつ、日本企業がSDGsを経営に統合し、自社・社会・環境などあらゆる方面で価値ある企業活動を実施できるためにSDGs経営ガイドが作られた。

把握しておくべき主なポイント

SDGs経営ガイドで抑えておくべきポイントを抽出した。

  1. 中小企業にとってのSDGsを経営に統合させるチャンスとリスク
  2. 共通価値の創造による企業価値・売上拡大
  3. 共通言語による各ステークホルダーとのコミュニケーション
  4. 経営者の手腕が試されていること

4つのポイントを説明していく。

中小企業にとってのSDGsを経営に統合させるチャンスとリスク

中小企業の経営者や中間管理職の中には「うちは大手企業と違って、SDGsに取り組む余裕なんてない。企業体力ある大手企業に任せておこう」と考えている方がいる。

本当にそれでいいのだろうか?

「SDGsビジネス概要」でも説明しているため軽くふれると、大手・中小問わず企業がSDGs経営(ビジネス)を実施しないと投資家・顧客・求職者などのステークホルダーから選ばれなくなるリスクがある。

つまり、投資されなかったり、商品・サービスを購入してもらえなかったり、人を採用できなかったりする。このリスクは政府や先進的な企業をはじめとした人らが啓蒙している事実である。

私の知り合いの経営者が就活生に企業説明会で「御社はSDGsに対してどのような取り組みをしていますか?」と聞かれ、驚いたと言っていた。

逆にSDGs経営(ビジネス)に取り組むことは大きなチャンスでもある。

確かに、リスクという反対の恩恵も存在するが、世界経済フォーラムの「ビジネスと持続可能な開発委員会(Business & SustainableDevelopment Commission)」が発行している主要報告書「Better Business,Better World(より良きビジネス、より良き世界)」 には「SDGs達成で年間12兆米ドルの市場機会の価値がある」と発表されている

SDGs達成で少なくとも年間12兆米ドルの市場機会の価値がある

SDGsやESGを念頭においたプロダクト・プロセス・マーケット・サプライチェーン・オーガニゼーションなどでのイノベーションを起こすことができれば企業価値も高まり、勝ち残れる企業にもなれ、社会問題も解決していける。

説明したリスクとチャンスに対して当事者意識をもち、地道に事業活動した企業が評価されていくだろう。

共通価値の創造(CSV)による企業価値・売上拡大

共通価値の創造(CSV)とは、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が「共通価値の戦略」という2011年の論文において提唱した概念で、「経済的価値を創造しながら、社会的ニーズに対応することで社会的価値も創造する」アプローチだ(*2)。

SDGsやESGの意識の高まりはこのCSVを後押ししている。

SDGs経営ガイドにも以下のように記されている(*3)。

ESG投資とSDGsのつながり
(出所:GPIF「ESG投資とSDGsのつながり」)

投資家によるESG投資と、民間企業のSDGsへの取組は裏表の関係にある。世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)では、ESG投資とSDGsの関係について、民間企業がSDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し、企業価値の持続的な向上を図ることで、ESG投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している。

SDGsやESGに取り組むことで、CSVを加速させ、投資家や顧客との関係が良好になり、調達額や売上を拡大させられる可能性を高められる。

共通言語による各ステークホルダーとのコミュニケーション

SDGs経営ガイドの作成に関わった大手企業・ベンチャー企業の方などが以下のように述べている(*4)。

ESGやSDGsという世界的なフレームワークを用いて、日本企業が海外でコミュニケーションすることで、日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する。

SDGsは、国連総会で合意された世界共通の目標である。つまり、日本国内でもそうだが、世界のプレイヤーとコミュニケーションとれる世界共通の言語でもある。

また、世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動していることから、「SDGsって何のこと?」「SDGsを経営に統合させる価値なんてない」と言っている内は世界のプレイヤーや日本国内のステークホルダーとコミュニケーションをとることなどできない

となると、SDGsネイティブといわれるような社会問題への意識が相対的に高いミレニアル世代や大学、クライアントなどのステークホルダーと関係構築できず、社会から淘汰されていくかもしれない。

これは煽っているのではなく、日本国内だけをみても多くのプレイヤーがSDGsを前提に事業活動している事実があるのだ。

SDGsという世界共通の言語を用いてコミュニケーションをとっていくことは、ステークホルダーとの連携を促進する機会となる。

経営者の手腕が試されている

SDGsやESGの意識が高まり企業を評価する軸が変わった。利益を拡大して経済価値を高めるのも相当な苦労だが、今後は経済価値だけでなく、社会価値・環境価値も高められる経営をしていく必要がある。

そのためには、SDGsやESGに関する新規ビジネスモデルの創出、仲間である社員のSDGsへのエンゲージメント向上、自社にとっての最重要課題の特定、リソース配分の見極め、社外のステークホルダーとの関係構築などにコミットしていかなければならない。

新たな角度から経営者の手腕が試されている時代だ(私も精進する…)。

「SDGs経営ガイド」を使いこなすための読み方・方法【ワークシート付】

SDGsを経営に統合していくための貴重な示唆を得られるSDGs経営ガイド。

当たり前だが、ガイドを読むだけでSDGsを経営に統合させられるわけではない。

これからSDGs経営(ビジネス)を実施しようと検討している企業向けにSDGsガイドを使いこなすための一つの方法を提案する。

まずはこの方法でSDGsを経営に統合させる第一歩を歩み始めてほしい。

読む前のマインドセットと目的設定

まずはSDGs経営ガイドを読む前にしてもらいたいマインドセットと目的設定について述べる。

ビジネス書などを読む前と同じだが、何のために読むのか、何を盗み取るのかといった目的やマインドをメモ帳などに言語化する。

SDGs経営ガイドのアジェンダをみて、「SDGsに関する世界動向を把握し、来月からSDGs経営に取り組むための具体的なアクションプランを立てる」といった目的を設定し、「何がなんでもSDGs経営を実践して、企業価値を高め、社会・環境をよりよくし、社員や社員の家族を絶対幸せにするぞ!」といった泥臭いマインドを言葉にしよう。

マインドセットと目的を明確にしておくことで、自社にとって必要な情報をキャッチアップしやすくなったり、集中力が高まり知識の浸透度合いが高まったりすると考えている。

「Points」を読みながらアクション案/経営方針案を必ず考えて記録する

続いて、SDGs経営ガイドを「どう読むか」についてだ。

冒頭からすべての文章を読むのももちろんいいが、私がおすすめするのは「Points」だけをまずはすべて読むことだ。

SDGs経営ガイドにはSDGs経営/ESG投資研究会に参加した大企業・ベンチャー企業の経営者、機関投資家のCIO(最高投資責任者)、大学の長、国際機関などの発言をまとめた「Points」が掲載されている。

Pointsを引用したワークシートを作成した。このワークシートを使いながら、Pointsを読みつつ、「アクション案/経営方針案」を埋めていく。

>>ワークシート「中小企業が「SDGs経営ガイドライン」を使いこなすためのワークシート」のダウンロードはこちら(メールアドレスなどの入力不要)

つまり、Pointsをただ読むのではなく、読んだ直後に社内でアクションしていく案や経営方針のアイデアを考えていく。何事も行動に落とし込まないとSDGs経営ガイドを読んだ時間が無駄になる。

「全体戦略/方針・マーケティング・ファイナンス・オペレーション」の順に整理

ワークシート①で書いたアクション案や経営方針案を「全体戦略/方針・マーケティング・ファイナンス・オペレーション」に分けて整理していく。

アイデアをより具体化させて今後のSDGs経営に活かしていく。JICAの「SDGsビジネス成功のポイント」も参考になる。

SDGsビジネスダイアローグで具体的なプランに落とし込む

ここまでのステップを通して、SDGs経営ガイドから経営戦略・マーケティング・ファイナンス・オペレーションの側面である程度の方向性がみえてくる。

最後に、Re:melosマガジンを運営している株式会社SHIROが企業に実施させていただいている「SDGsビジネスダイアローグ」を経営幹部内、あるいは公募型で社内からメンバーを集めて実施する。

詳細は「SDGsビジネスダイアローグで新規事業アイデアを創る方法【ワークシート付】」で説明しているので参考にしてほしい。

SDGsビジネスダイアローグは、組織内でダイアローグ(対話)を通して、複数のメンバーでSDGsビジネスアイデアを創出していくワークショップだ。

ワークシート①②で書いた内容をもとに、1,2日かけてじっくり社内でダイアローグし、互いのアイデアをバザール型で発表する。そして、各発表に対してフィードバックして、アイデアを磨いていく。

SDGs経営をする第一歩

「SDGs経営をしたいが何から始めればいいか分からない」企業にとってSDGs経営ガイドはSDGsを経営に統合していくための羅針盤になるだろう。

本記事で紹介したワークやSDGsビジネスダイアローグが、SDGsを経営に統合する第一歩を踏み出す機会になれば幸いだ。

まだまだ私たちもSDGs経営について模索中だ。よりよいアイデアや意見があればぜひともご連絡いただき、幅広く共有したいそれこそが、SDGsを達成するための動力になるからだ。

【参考・引用】

*1:経済産業省(2019)「SDGs経営ガイド」 pp.42

*2:M.E.ポーター,M.R.クラマー(2011).共通価値の戦略 ハーバード・ビジネスレビュー 2011年6月号

*3:経済産業省(2019)「SDGs経営ガイド」 pp.13

*4:経済産業省(2019)「SDGs経営ガイド」 pp.8

ABOUT ME
南 翔伍
南 翔伍
株式会社SHIRO 代表取締役。「貧困・虐待・非行の原体験 × ソーシャルビジネス経験」で社会問題解決に挑戦しつづける / 大学時代NPO法人と立ち上げた団体で貧困と障害をテーマに100名以上の子ども達を支援 / デジタルマーケティングのベンチャー企業での修行後、発達障害者支援をするソーシャルカンパニー、Web上で被害者と弁護士をつなぐリーガルテック企業でマーケティング責任者・事業統括マネージャーを務める / ソーシャルビジネス/社会的責任マーケティングに関する講演・ワークショップをしつつ、プラットフォームとWebメディアのグロースに専念