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ソーシャルビジネスとは何か。事例・課題より成功のカギを考察してみた

ソーシャルビジネスとは何か。事例・課題より成功のカギを考察してみた

ここ数年、幅広い人々へ社会問題への認知や関心が高まっているのを実感します。

特に、私がそう感じるのは、アパレル業界において「サステナブルファッション(環境や社会に配慮した取り組み)」という言葉をよく目にするようになったことです。

また、2020年10月の菅内閣総理大臣の所信表明演説においても「2050年までにカーボンニュートラル(脱炭素社会)を目指す」と宣言されております。

こういった、環境問題をはじめとした、様々な社会問題の解決に取り組む一つの手段として、「ソーシャルビジネス」があります。

この記事では、ソーシャルビジネスとは何ぞや?といった基本知識についてまとめるとともに、いざソーシャルビジネスを立ち上げた際に陥ってしまう失敗傾向、今後のソーシャルビジネス業界の展望・課題など、解説していきます。

「ソーシャルビジネスに携わってみたいけど、何から始めたらいいのかわからない…」
「社会問題について興味はあるけど、具体的にどんな行動をしたらいいんだろう…」
「現代社会に問題意識は抱いているけど、自分にできることってあるのだろうか…」

そんな「社会のために行動したい」と思われている、未来のやさしい社会変革者様にとって、この記事が役に立てば幸いです。

ソーシャルビジネスの定義は・・・無い!?

実は、ソーシャルビジネスにはこれ!といった定義は存在しません。

厳密にいうと、世界共通の定義が存在しないのです。

ソーシャルビジネスのミッションである「社会問題」は、世界各国においてその課題の背景や原因となる要素などはそれぞれ異なるため、共通定義として定めることが困難なのです。

日本においては、経済産業省のソーシャルビジネス研究会が定めた定義として、ソーシャルビジネスとは「社会問題を解決するために、ビジネスの手法を用いて取り組むこと」とされています。

加えて、以下の3つの要素を満たす組織のことを指しています(*1)。

  1. 社会性
    現在解決が求められる社会問題に取り組むことを事業活動のミッションとすること。
  2. 事業性
    ミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。
  3. 革新性
    新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること。

バングラデシュの経済学者であり、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスは、ソーシャルビジネスの7原則として、以下を挙げています。(*2)

  1. ユヌス・ソーシャル・ビジネスの目的は、利益の最大化ではなく、貧困、教育、環境等の社会問題を解決すること。
  2. 経済的な持続可能性を実現すること。
  3. 投資家は投資額までは回収し、それを上回る配当は受けないこと。
  4. 投資の元本回収以降に生じた利益は、社員の福利厚生の充実やさらなるソーシャル・ビジネス、自社に再投資されること。
  5. ジェンダーと環境へ配慮すること。
  6. 雇用する社員にとってよい労働環境を保つこと
  7. 楽しみながら。

アメリカの経済学者マイケル・ポーターは、「企業が社会問題に取り組むことによって、社会的価値と経済的価値の双方を生み出すことができる」と提唱しています。(*3)

上記のことをまとめると、ソーシャルビジネスは、「社会問題の解決を目指し、社会的価値を創出する、持続的な事業活動」といえます。

ソーシャルビジネスが生まれた歴史的背景とは?

ソーシャルビジネスは、社会問題解決の手法の一つであり、その他の解決手法からすると、歴史としては比較的浅いものです。

そもそも、社会問題の発端は、産業革命などの経済成長に伴い、大規模な失業による生活困窮者が増えたため、それまでの家族間や地区内における相互扶助が成り立たない状態となったことによります。

そこで、国や行政が問題解決に取り組み、国民の生活の質を上げるように働きかけました。これが社会福祉・社会保障制度の成り立ちです。

国民の最低限の生活が社会保障によって担保されるようになると、次いで国民の質の高い生活水準の保障が必要になります。

日本における年金制度が良い例。元々は就労不可能な高齢者の貧困防止のための制度でした。しかし、現在となっては医療の発展により高齢者が介助なく生活できる健康寿命が延びたため、就労可能な高齢者の所得保障の制度としての面も担っております。

元々の成り立ちは生活困窮者のための社会保障が、現状のような国民全員のための社会保障となると、より多くの財源(=税収)が必要となり、国民全体の生活保障費の負担が大きくなっていきます。

社会保障の対象となる層と、支える層のバランスが取れていないことには、充実した社会保障は成り立ちません。

そこで、この崩壊しつつある国や行政が行う社会保障制度に加えて、持続可能な財源確保のできる社会問題解決の手法としてソーシャルビジネスが発展していきました。(*4)

一般的なビジネスとソーシャルビジネスの違いは?

ビジネスとソーシャルビジネスをわざわざ分類しているのはなぜなのでしょうか?

それは、ビジネスとソーシャルビジネスのそれぞれの目的が異なるからです。

  • 一般的なビジネス・・・・利益の追求
  • ソーシャルビジネス・・・社会的問題の解決

ソーシャルビジネスにおけるビジネス要素は、あくまでも手段となります。

ただ、ここでいう「ソーシャルビジネス」が、近い将来、利益の追求の手段として主流になっている可能性もあります。

ボランティアとソーシャルビジネスの違いは?

同じ社会的問題の解決を目的としているボランティアとソーシャルビジネスは何が異なるのでしょう?

それは、ボランティアとソーシャルビジネスでミッションに取り組むための資源の生み出し方が異なります

  • ボランティア・・・・・・社会的問題解決に取り組むための資源(金銭的、人的)は寄付や助成金が主。
  • ソーシャルビジネス・・・社会的問題解決に取り組むための資源(金銭的、人的)はビジネス要素において自ら生み出すことができる。

ソーシャルビジネスは、その事業性から新たな雇用や利益さえも生み出すことができるのが特徴です。

現代における社会問題の事例とその問題点

現代の社会問題事例①:貧困

貧困を示す指標はいくつかありますが、最も代表的なものの一つに、国連開発計画(UNDP)が唱える「多次元貧困指数(MPI)」と、世界銀行が唱える「国際貧困ライン」があります。

多次元貧困指数(MPI)とは、教育や保健衛生面、生活水準の3つの観点を用いて、貧困の形を多角的に捉える指標です。多次元貧困層は、この3つの観点全てにおいて該当する世帯全員が当てはまります。(*5)

国際貧困ラインとは、1日1.90ドル(2021年8月現在、日本円で約200円程度)以下で生活する層を貧困層としています。(*6)

2019年のMPIにおいては、多次元貧困層は13億人を超えており、調査対象中の22%に及びます。(*7)

2015年10月の国際貧困ラインにおいては、世界の貧困層の数は7.3億人、調査対象中の10%に及びます。(*6)

貧困の問題点は、金銭の不足という経済的一面だけではなく、医療や教育、食料や安全な水の持続的な確保、公衆衛生などの様々なサービスを十分に享受することができない点などがあげられます。

貧困問題と一言にいっても、「貧困」の基準、原因、問題点は多角的な視点で捉える必要があります。

現代の社会問題事例②:高齢化

2020年の世界人口は77.9億人であり、そのうち65歳以上人口は7.2億人となり、世界人口の9.3%は高齢者です。

先進地域においての高齢者人口比率は19.3%、開発途上地域においての高齢者人口比率は7.4%となっており、先進地域のおいて高齢者人口は増加しやすい傾向にあります。

2060年には世界人口は101.5億人となり、そのうち高齢者人口は18.1億人、比率として17.8%は高齢者の時代が来ると予測されています。

また、日本は世界的にみても高齢者人口比率の高い国です。2020年現在において、総人口は1.2億人、そのうち高齢者人口は3,619万人、総人口に占める比率は28.8%です。(*8)

世界の高齢化率の推移

高齢化の問題点は、生産年齢人口といわれる15歳〜64歳の人口の減少による経済活動・労働力の低下、それを補うために長時間労働の横行、それに伴う過労による健康状態の悪化、高齢者を対象とする社会保障費の負担増加などがあげられます。

 

以上の例をみると、社会問題は一つの現象を起因として細分化すると様々な問題へと派生していることがわかります。

そういったことからも、ある一つの問題を解決するといっても、そこに複雑に絡んでいる課題を紐解いていき、解決へのアプローチをしていかなければなりません。

ここでとりあげたものは、ごく僅かな一例でしかありません。
日本が抱える社会問題一覧【2021年版】|ソーシャルグッドCatalyst」に、日本における社会問題一覧がまとまっておりますので、ぜひご覧ください。

世界のソーシャルビジネス事例

貧困層向け金融サービス グラミン銀行

グラミン日本

グラミン銀行は、ソーシャルビジネスの先駆けとも言われる事例の一つです。

貧困層向け金融サービスに特化し、単なる貧困層への金融サービスの提供だけではなく、利用者の社会性の向上の意識づけを行い、利用者の生活様式やお金への向き合い方の意識改革を行いました。

ビジネスとしても、利用者の利便性や融資金返済管理の標準化を行い、利益の増大を可能とした、持続可能なソーシャルビジネスモデルといえます。(*9)

日本にもグラミン日本がありますので、ご覧ください。

250万ユーザーの農家向けSNS WEFARM

250万ユーザーの農家向けSNS WEFARM

WEFARMは、第一次産業(農林水産業)に従事する人、その中でも発展途上国の小規模の農家向けのSNSです。利用ユーザー数は約250万人と言われています。

小規模の農家において、よりよい農業技術や農業資材などの市場の情報の取得・理解が不足すること(情報格差)は、利益の損失にもつながってしまいます。

そこで、他者と対面することなく、手軽に多くの知識・情報を得られるプラットフォームを設けることで、情報格差を解消することが可能となりました。

日本のソーシャルビジネス事例

障害者手帳をスマホアプリへ ミライロID

障害者手帳をスマホアプリへ ミライロID

MIRAIRO IDは、障害者手帳の情報をスマホ内に取り込み、手軽に情報を提示できるスマホアプリです。

必要な介助内容なども登録できるので、介助してほしい内容を自分で伝えることが困難な方でも、アプリを提示することで周囲とのやり取りがスムーズになります。

また、飲食店やECサイトなどで使えるクーポンをアプリ内で配信しているので、アプリ利用者の消費行動を促す事もできます。

生理用ナプキンの無料提供サービス OiTr(オイテル)

生理用ナプキンの無料提供サービス OiTr(オイテル)

OiTr(オイテル)は、生理による経済的・精神的負担を軽減させる一つの取り組みとして、公共施設やショッピングモールに無料の生理用ナプキンを常備し、OiTr専用アプリから広告映像を利用者が見ることで無償で手に入れられます。

アプリ内に掲載されている広告の収益により、生理用ナプキンを継続的に無償で提供ができます。

ソーシャルビジネス立ち上げ時に陥りやすい失敗傾向からわかる、成功のカギとは?

ソーシャルビジネスの「目標」は、社会問題解決への持続的なアプローチです。

それを可能にさせる「手段」として、事業活動を行なっています。

事業として安定的に経営できなければ、目標の達成はできません。

この「目標」と「手段」を組み合わせるが故の困難がいくつか生じてしまいます。
ここでは、ソーシャルビジネスの立ち上げ時に陥りがちな失敗傾向をいくつかあげていきます。

傾向その1 事業としての収益化構造ができていない

事業の「目標」と商品コンセプトやサービス内容が定まり、いざ起業!
…したはいいものの、事業として軌道に乗る前の段階で資金が底をついてしまう。

加えて継続的に収益が得られる仕組みも完成されていないため、事業としての継続が困難になリます。

傾向その2 解決したい社会問題への理解・知識が不足している

社会問題は事象自体が多様に存在し、その要因は多くの要素が複雑に絡まり合っています。

ビジネスという手法を用いてその社会問題を解決する意義や、社会問題の本質を理解しなければ、効果的な解決手法を生み出すことは困難です。

傾向その3 組織全体において目的を見失っている

ビジネス面においても、社会問題の解決においてもそうですが、組織全体において「目標」の共通認識がなされていなければ、組織としての方向性が失われてしまうだけでなく、人材流出の要因の一つにもなります。

傾向その4 目的達成前に諦めてしまう

目標達成をする前に諦めることはつまり、失敗となります。
成功するまで、あらゆるアプローチでチャレンジする必要があります。

失敗傾向からわかる、成功のカギは?

以上の失敗傾向から、ソーシャルビジネスを成功させるカギは、theory of change(変化の理論)の確立にあると考えられます。(*10)(*11)

theory of change(変化の理論)を確立させるためには、まず最終的なゴール状態を定めます。

ここを基準とし、長期的・中期的・短期的アウトカムを定め、それを達成するための前提条件を洗い出し、そこには誰が利害関係者となり、何がボトルネック要因となり、何が促進要因となるか、変化が起こるまでの物語を作成する必要があります。

例えば、「死ぬまでに自分の歯を20本以上保つ!」という最終的なゴールを定めましょう。

ここを基準とし、長期的アウトカムとして「虫歯や歯周病で抜歯しない」、中期的アウトカムとして「かかりつけ医に定期検診してもらう」、短期的アウトカムとして「毎日朝晩の2回歯を磨きデンタルフロスを都度行う」と定めましょう。

長期的アウトカムの前提条件として虫歯や歯周病にならないことが挙げられ、そこではかかりつけ医と歯磨きをする私自身が利害関係者となり、ボトルネック要因としては「虫歯や歯周病になった状態に自分では気づきにくく、自覚症状がある場合には重症化している」といったことが挙げられます・・・

と、いったように最終的なゴールから遡って、そこに到達するための利害関係者をできるだけ多く巻き込み、それぞれの立場から最終ゴールへのアプローチをする物語を作り、掲げたゴールを達成するまでそれぞれが諦めないことが、成功のカギだと考えます。

市場規模からみる今後のソーシャルビジネス業界への期待

社会問題解決の一つの手段としてのソーシャルビジネスについてお話ししてきましたが、ビジネスチャンスを潜在的に含んでいるという一面もあります。

ソーシャルビジネス研究会が行った平成20年の調査によれば、社会的企業数は8,000社、雇用規模は3.2万人とあります。(*1)

しかし、平成27年の内閣府が行った調査によると、社会的企業数は20.5万社まで増加し、経済全体においてはその割合は11.8%を占めています。事業収益は中小企業全体において13.4%、経済全体においては4.4%となっています。有給職員数577.6万人、経済全体においては10.3%を占めており、企業数という観点で言うと、約7年間でソーシャルビジネス業界は約25倍に急成長しています。(*12)

ビジネスという面において、ソーシャルビジネスのニーズは社会問題の当事者にあります。社会問題は短期間で解決することは困難です。

しかし、別の捉え方をすれば今後も長期的にニーズが存在している、ということ。ソーシャルビジネスは、大いにビジネスチャンスが存在する市場といえるでしょう。

「個人」の「社会」に対する向き合い方

「社会問題を解決する」という目標は、どこか現実から距離のある話題に聞こえがちかもしれません。

目標が達成できるゴール自体が1ヶ月後や1年後など、すぐに手の届く未来にないので、無理もないかもしれません。

しかし、社会問題が存在している「社会」を構成するのは、私たち1人1人であるということを忘れてはなりません。

現状の社会に生きていて、あなたは「幸せ」ですか?

幸せな方も、そうでない方も、あなたの家族や友人、パートナー、職場の同僚、未来のあなたの家族、そのまた更に未来の家族、あなたに関わる全ての人たちが「幸せ」に生きていける社会であれば、あなた自身もより幸せを感じれるのではないでしょうか。

まず自分の身の回りにある課題に気付き、それを解決するために行動できる人が1人増えれば、その人の周囲を変えることができます。

そういった行動をできる人が様々なコミュニティで現れれば、その変化はやがて社会、世界をより良くすることができます。

社会問題は、1人1人の行動によらなければ解決できません。
目の前の課題解決に愚直に取り組む「個人」が、「やさしい社会変革者」になれるのです。

下記URLには、具体的なソーシャルビジネスモデルが掲載されています。
ぜひご覧ください。