こんにちわ。ソーシャルビジネスを日本に広めたい南(@minami_shiroInc)です。
「SDGs・サステイナブル時代に必要な社会的責任マーケティング(ソーシャルマーケティング)とは?体系的に解説!」で社会的責任マーケティングの概念などについて解説した。
本記事では、社会的責任マーケティングを組織が、特に企業が実施していく際に、どのように進めていけばよいか、実践するポイントに絞って解説していく。
目次
社会的責任マーケティングのおさらい
社会的責任マーケティングについてあまり知らない方は、「SDGs・サスティナブル時代に必要な社会的責任マーケティング(ソーシャルマーケティング)とは?体系的に解説!」を読んでいただけると理解が深まるだろう。
社会的責任マーケティングとは、企業が利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、投資家等、及び社会全体)からの要求に対して適切な意思決定をする責任を指す。CSRは企業経営の根幹において企業の自発的活動として、企業自らの永続性を実現し、また、持続可能な未来を社会とともに築いていく活動である(*1)。
コトラー&ナンシー『企業の社会的責任』(PhilipKotler & Nancy Lee, Corporate Social Responsibility,2005)では、企業の社会的取り組みを大きく2つに分類されている。

マーケティング関連活動(マーケティング主導の取り組み)
- コーズ・プロモーション
社会的な主張に対して意識と関心を高めること
- コーズ・リレーテッド・マーケティング
製品の売上を通してされる社会貢献
- ソーシャル・マーケティング
行動変革キャンペーンの支援
※SNSマーケティングのことではない
マーケティング非関連活動(コーポレート主導の取り組み)
- コーポレート・フィランソロピー
コーズに対する直接的な寄付活動
- 地域ボランティア
従業員が自らの時間と能力を提供する - 社会的責任に基づく事業
コーズを支援するための自主的な事業活動と投資
マーケティング関連活動である、コーズ・プロモーション、コーズ・リレーテッド・マーケティング、ソーシャル・マーケティングにフォーカスをあて、この3つのマーケティングを実践していくためのポイントを詳しく解説していく。
とその前に、コーズ・プロモーション、コーズ・リレーテッド・マーケティング、ソーシャル・マーケティングのどれを実施していくかを考える際に、企業にもたらすベネフィットを参考にするとよい。
フィリップ・コトラー、ナンシー・R・リーはコーズ・プロモーション、コーズ・リレーテッド・マーケティング、ソーシャル・マーケティングのそれぞれが企業にもたらすベネフィットを以下のように整理しているので参考にしてほしい(*2)。

では、社会的責任マーケティングを実践するためのポイントを解説していく。
社会的責任マーケティングを実践するまでの4ステップ
コーズ・プロモーション、コーズ・リレーテッド・マーケティング、ソーシャル・マーケティングのそれぞれで、考えたり、調整したり、作成したりすべきことは異なる。
しかし、大枠は以下の4ステップで準備や実行後の体制をつくっていく。
- 取り組む社会問題・社会的コーズ(主張)を選択する
- 選択した社会問題・社会的コーズ(主張)を支援する取り組みを選択する
- 選択した取り組みを実行する体制づくり・マネジメント体制の構築
・スケジューリング - 取り組みの評価体制の構築
社会的責任マーケティングの先駆者であるフィリップ・コトラー、ナンシー・R・リーの学説、私の経験をもとに、①と②のステップでのポイントを念入りに解説していく。
少しでも、実践する参考になれれば幸いだ。
取り組む社会問題・社会的コーズ(主張)を選択するポイント
まずは、「取り組む社会問題・社会的コーズ(主張)を選択する」ための4つのポイントを解説していく。
①できるだけ選択する社会問題・社会的コーズ(主張)を絞り込む
当然すぎるが、企業の経営資源は限られている。そのため、限りある経営資源を集中させないと、競合他社にビジネスで勝てなかったり、社会的責任マーケティングを実施しても期待するような効果が得られなかったりする。
一応、経営資源とはどういうものか記載しておく。不要な人は読み飛ばしてほしい。
国際<IR>フレームワーク(*2)では、経営資源は大きく分けると6つの資本に大別される。

①財務資本
製品を生産する、サービス提供する際に使える資金
借入金、株式、寄付
②製造資本
建物、設備
インフラ(道路、港湾、橋梁、廃棄物、水処理工場など)
③知的資本
特許、著作権、ソフトウェア、権利、ライセンスなどの知的財産権
暗黙知、システム、手順、プロトコルなどの「組織資本」
④人的資本
組織ガバナンス・フレームワーク、リスク管理アプローチ、倫理的価値への同調と支持、組織の戦略を理解し、開発し、実践する能力、プロセス、商品及びサービスを改善するために必要なロイヤリティ及び意欲であり、先導し、管理し、協調するための能力
⑤社会関係資本
共有された規範、共通の価値や行動
主要なステークホルダーとの関係性、組織が外部のステークホルダーとともに構築し、保持に努める信頼及び対話の意思、組織が構築したブランド、評判に関連する無形資産、組織が事業を営むことについての社会的許諾(ソーシャル・ライセンス)
⑥自然資本
空気、水、土地、鉱物、森林
生物多様性、生態系の健全性
日本企業のコーポレートサイトを拝見していると、「私たちは、幅広く社会問題A、社会問題B、社会問題C、社会問題D、社会問題E、社会問題Fに取り組み、社会貢献しています」のようなメッセージが書かれている。
大企業のような経営資源が豊富だと話は別だが、基本的に経営資源を分散させてしまうと、戦略・戦術・施策の成果が上げられなくなりがちだ。
まずは、一つ取り組む社会問題・社会的コーズ(主張)を選び、経営資源を集中させていくのがベストだ。
また、実行する社会的責任マーケティングのターゲットに届けるメッセージもふわっとしてしまい、「結局、あなた達は何がしたいの?」と期待する反応を得られなくなってしまうのだ。
社会的責任マーケティングだけでなく、通常のマーケティングでも同様だが、マーケティング戦略・戦術・施策を考える際は「やらない・伝えないことを決める」のが鉄則だ。
②ステークホルダーの関心が高い社会問題を選択する
企業がどの地域で経済活動をしているかによって話が変わるので一概には言えないが、経済活動を行っている地域住民、投資家、関係機関など、ステークホルダーが関心をもっている、優先的に解決しないと危険だと考えているような取り組む社会問題を選択しよう。
選択した社会問題に対する取り組みが、地域住民に評価してもらえやすい、関係機関から協力してもらえやすいといったメリットがあるからだ。
もちろん、ステークホルダーが解決しないといけないと見逃している社会問題も存在する。その際は、次で紹介するポイントと照らし合わせて、取り組むかどうかを決めてほしい。
③自社のビジョン・ミッション・パーパス・製品/サービスと関連性がある社会問題を選択する
企業が社会的責任マーケティングを実施する際に、「問題を解決して社会をよくする」という社会的価値をうみだす目的もあるだろう。しかし、利益を出し続けないと継続的に取り組めないのも現実だ。
そのため、社会的価値だけでく、「売上を増加させる=経済的価値を高める」必要もあるはずだ。
売れる仕組みを創るため、自社のビジョン・ミッションを実現させるために、製品/サービスを開発し、ターゲットに価値提供をし、マーケティングミックス(プロモーション、プライシング、プロダクト、プレイス)を考えて実行するマーケティングと同じように、社会的責任マーケティングでも自社のビジョン・ミッション・パーパスに繋がるか、製品/サービスとレバレッジが効くかの観点で社会問題を選択しよう。
そして、経営目標達成に貢献するだろうと考えられる取り組みに落とし込もう。
④経営資源をふまえて長期的に取り組める社会問題を選択する
社会的責任マーケティングの中でも、特にターゲットの行動を変革することが目的であるソーシャル・マーケティングの場合、期待する成果を得るまでに数年間の時間が必要なケースがある。
ターゲットに行動を変革してもらうために、Webサイトの開設、オンライン・オフライン広告の実施、コンテンツ制作、イベント開催、ポスター・パンフレットなどの制作、届けるメッセージの開発、プロダクトの開発、予算編成、KGI/KPIの設定など、すべきことは多岐にわたる。
となると、自社の経営資源を考えて、「より必要な経営資源が少なく、効果を最大化さられる」社会問題・社会的コーズ(主張)を選択する必要がある。
社会問題・社会的コーズ(主張)を支援する取り組みを選択するポイント
続いて、「社会問題・社会的コーズ(主張)を支援する取り組みを選択する」ための5つのポイントを解説していく。
①経営目標の達成が見込める取り組みを選択する
企業が社会的責任マーケティングを実施する際、経営目標の達成に貢献しなければ、継続的に実施していく意思決定をするのは困難だろう。
そのため、以下のような観点別の目標達成に貢献しうる社会問題・社会的コーズ(主張)を選択するとよい。
- 事業目標
- マーケティング目標
- 企業イメージ(ブランディング)における目標
- ファイナンス目標
- オペレーション目標
- 人事目標
- パートナーシップ(アライアンス)目標
どれかしらの目標達成に貢献できる社会問題・社会的コーズ(主張)は何か?とプロジェクトメンバーでディスカッションしてほしい。
②経営・社会問題における優先的な課題を解決するための取り組みを選択する
企業が社会的責任マーケティングを実施するのは、経営や事業の課題を解決したいが、今までのやり方では限界を感じてる時が多い。もしくは、本業や本業以外のことで、(SDGsをはじめとした世界や日本の情勢を考慮して)もっと社会問題解決に向けた取り組みを強化したい時だ。
となると、経営・事業の優先的な課題、選択した社会問題の中でも解決を急がなければならない優先的な課題をまずは特定しておく必要がある。
「経営・事業」と「社会問題・社会的コーズ(主張)」の優先的な課題の双方が同時に解決できうる取り組みを選択することが、経営目標も達成し、ターゲットに期待する行動をしてもらえる可能性が高くなる。
③複数の取り組みを同時に検討する
通常のマーケティング(4P/4C)でも、各チャネル(SNS,オウンドメディア ,TV,交通機関など)でどのような施策をするか、どのようなメッセージを一貫して届けるか(プロモーション)、プロダクトをどう開発・改善するか、などのように複数のことを検討して、実施しているはずだ。
それと同じように、社会的責任マーケティングでも、一つの施策だけを実施するだけでなく、複数の施策を実施する方が、期待する効果をえられる可能性が高くなる。
もちろん、経営資源に応じて施策の優先度を決め、スケジュールを引いて着手していく。
④既存・新規パートナーと協力できる可能性のある取り組みを選択する
特にコーズ・プロモーション、ソーシャル・マーケティングを実施する上で、選択した社会問題の構造、当事者の深い理解、リーチ数の拡大などあらゆる観点において、公共セクターやNPO法人などとの協力が欠かせない。
そのため、すでに関わりのあるパートナー、新規開拓したいパートナーに協力してもらえやすい取り組み内容を検討しておくのも重要である。
⑤自社の豊富な経営資源・経験・強みを活用できる取り組みを選択する
取り組む内容案をいくつか出した後は、事業と同様に、クロスSWOT分析でじっくり整理した自社の強み・経営資源などを最大限活用し、もっとも期待する成果をえられると考えられる取り組みを選択しよう。
私は、社会的責任マーケティングにも、競争原理を生かした方がよいと考えている。
「他社に同様の取り組みを行われたら、自社へのプラスの効果が小さくなってしまう」危機感を常に持ちつつ、自社だからこそできる、もしくは競合が類似している取り組みをしても勝てると考えられる取り組みに特化させた方がよい。
どの取り組みをするにしても、社会全体で考えると、プラスの効果がうまれる可能性があるだろう。しかし、自社へのプラスの効果もないと経営資源を投資して行うことが困難になるだろう。
そのため、ビジネスと同様に、社会へも価値を提供しつつ、自社への経済的価値も高められると考えられた取り組みに経営資源を集中させて、実施していこう。
取り組む社会問題・社会的コーズ(主張)を選択し取り組む内容も決まったら、マネジメントと評価の仕組みを創る
これまで、社会的責任マーケティングを実践するための4ステップ中2つに関するポイントを解説してきた。
ステップ①:取り組む社会問題・社会的コーズ(主張)を選択するのポイント
- できるだけ選択する社会問題・社会的コーズ(主張)を絞り込む
- ステークホルダーの関心が高い社会問題を選択する
- 自社のビジョン・ミッション・パーパス・製品/サービスと関連性がある社会問題を選択する
- 経営資源をふまえて長期的に取り組める社会問題を選択する
ステップ②:選択した社会問題・社会的コーズ(主張)を支援する取り組みを選択するのポイント
- 経営目標の達成が見込める取り組みを選択する
- 経営・社会問題における優先的な課題を解決するための取り組みを選択する
- 複数の取り組みを同時に検討する
- 既存・新規パートナーと協力できる可能性のある取り組みを選択する
- 自社の豊富な経営資源・経験・強みを活用できる取り組みを選択する
では、残りのステップ③④については「社会的責任マーケティングを実行し、評価するための11ポイントを解説した」で詳しく解説していく。
マネジメント体制、チームづくり、パートナーとのプランニングなど選択した取り組みを、どう実行していくか、どう評価していくかを複数の角度から考えておくのが重要だ。
ぜひ、参考にしてほしい。
【参考・引用元】
*1:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
*2:Philip Kotler and Nancy R.Lee(2004).Corporate Social Responsibility: Doing the Most Good for Your Company and Your Cause Wiley.フィリップ・コトラー,ナンシー・R・リー 恩藏直人(監訳) (2007). 社会的責任のマーケティング 「事業の成功」と「CSR」を両立する 東洋経済新報社) pp.282−283
*3:国際統合報告評議会(IIRC).国際統合報告フレームワーク 日本語訳,13−14.