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社会的責任マーケティングを実行し、評価するための11ポイントを解説した

社会的責任マーケティングを実行し、評価するための11ポイントを解説した

こんにちわ。ソーシャルビジネスを日本に広めたい南(@minami_shiroInc)です。

社会的責任マーケティングを実行していく際に使えるツールやフレームワークを紹介しつつ、どのように実行する体制を創ればよいか、どのように取り組み内容を評価していけばよいかを解説していく。

企業が社会的責任マーケティングを実践する上での懸念

「社会的責任マーケティング設計における取り組む社会問題の選択、取り組みの選択の9ポイントを解説」で社会的責任マーケティングを実行するまでの4ステップの2ステップ分を解説した。

ステップ①:取り組む社会問題・社会的コーズ(主張)を選択するのポイント

  1. できるだけ選択する社会問題・社会的コーズ(主張)を絞り込む
  2. ステークホルダーの関心が高い社会問題を選択する
  3. 自社のビジョン・ミッション・パーパス・製品/サービスと関連性がある社会問題を選択する
  4. 経営資源をふまえて長期的に取り組める社会問題を選択する

ステップ②:選択した社会問題・社会的コーズ(主張)を支援する取り組みを選択するのポイント

  1. 経営目標の達成が見込める取り組みを選択する
  2. 経営・社会問題における優先的な課題を解決するための取り組みを選択する
  3. 複数の取り組みを同時に検討する
  4. 既存・新規パートナーと協力できる可能性のある取り組みを選択する
  5. 自社の豊富な経営資源・経験・強みを活用できる取り組みを選択する

この2ステップを終えたら、次は取り組みを実行する(andマネジメントする)、実行した取り組みを評価するステップだ。ポイントを解説する前に、どうしてポイントを解説する必要があるかを説明しておく。

SDGs・サスティナブル時代に必要な社会的責任マーケティング(ソーシャルマーケティング)とは?体系的に解説!」で、社会責任マーケティングの課題やリスクを解説しているが、実行する、実行した取り組みを評価するために知っておかなければならない懸念が以下だ(*1)。

社会的責任マーケティングの懸念

これらの懸念を頭の片隅において、これから説明するポイントを読んでもらえると、より重要性・必要性を理解できる。

では、一つずつ丁寧に解説していく。

取り組みを実行する体制づくり・マネジメント体制の構築・スケジューリングのポイント

まずは、社会的責任マーケティングを実行していく上での、体制づくり・マネジメントする方法、取り組みのスケジュールの引き方についてだ。

①プランニングするために部署を横断したチーム編成する

社会的責任マーケティングだからといって、マーケティング部署・CSR部署だけでプランニングすると、他部署との齟齬やプランニングの修正にかなり工数がかかってしまう。

そのため、ファイナンス・オペレーション・人事・総務・経営企画など各部署のメンバーを集めたプロジェクトチームをつくるのをおすすめする。

「効果的で効率的な取り組みを実行する」を実現させるために、各領域の専門家を集めて、意見を出し合って、プランニングするのがもっともスピーディーに、かつインパクトを大きくできる可能性を高められる。

プロジェクトメンバーを集めるための、初期プランニングなどは経営層、マーケティング部署、CSR部署のメンバーが実施し、その後他部署の人に説明して、協力を要請するのがよいだろう。

②パートナーありきでプランニングする

ソーシャル・マーケティングなど社会的責任マーケティングでは、パートナーとの協力がマストなケースが多い。

そのため、自社内だけでプランニングするだけでなく、具体的な施策内容を検討する際に、パートナーも参加してもらい、自社にはない観点・価値観・経験を取り入れて、プランニングするのをおすすめする。

よりターゲットを理解しているのはパートナーであることが多い。

そのため、マーケティング・ミックス(4P/4C)の一つであるプロモーションを検討する際に、どのようなメッセージだと適切に届けられるか、どういったクリエイティブだとターゲットに受入れてもらえるかをより精度高く仮説をつくれるだろう。

(もちろん、パートナーにもよるが…)

また、プランニング段階から、一緒に動くため、役割分担・責任の所在を齟齬なくハッキリさせやすいため、あとでモメるリスクを避けられやすくなる。

③具体的な目的と計測可能なKGI/KPIを設定する(SMARTの法則)

事業も同様だが、何かを実施するなら目的・目標を定めておく必要がある。

でないと、「何のためにしているのか」「何をもって成果とするのか」をクリアにしておかないと、プロジェクトをすすめるにつれ、体力切れになったり、行動の先にある未来をイメージしにくくなりモチベーションが低下したりしてしまうためだ。

目標を決める際に、参考にしたいのが「SMARTの法則」だ。

SMARTの法則

SMARTの法則とは、ジョージ・T・ドラン氏が1981年に発表した目標設定法である。

この5つの観点で、目標を定めておこう。

④SNSなどを活用したコミュニケーション設計をする

社会的責任マーケティングを実施する上で、欠かせないのがターゲットとのコミュニケーション設計だ。

私がよくプロモーションを企画する際に使う、以下のようなワークシートで、ターゲットとのコミュニケーションを設計すれば、初速スピードをあげられるはずだ。

SNSなどを活用したコミュニケーション設計をする

コミュニケーションの目的は、ターゲットの行動を変革すること、認知してもらう、関心を向上してもらう、取り組みへの参加増加などさまざまだ。つまり、目的によって、誰にメッセージを届けるかも変わってくる。

その際に、マーケティングでよく用いられるカスタマージャーニーマップを目的別のペルソナを考える際に、活用するのもよいだろう。

カスタマージャーニーマップ
(出所:カスタマージャーニーマップで顧客の心を見つめてサイトを改善、5つの作成ステップと7つの実例|Web担当者Forum)

誰に対しても、どのチャネルにしても、「一貫的なメッセージにする」が鉄則だ。

友人関係でも、人によって態度や言っていることが異なると、不信感を抱く時もあるだろう。それと同じで、企業もターゲットやチャネルによって言っていること(メッセージ)が異なっていると、ブランドに対する不信感をもたれてしまう恐れがあったり、期待する成果から遠ざかってしまったりするため注意しよう。

また、目的別・ターゲット別の一貫的なメッセージが決まったら、どのチャネルでメッセージを届けるかを決める。その際には、以下のようなチャネル種類を参考にしてもらえるとよいだろう。

チャネルの種類

 

▼チャネルの種類

  • Twitter
  • Facebook
  • Instagram
  • Yutube
  • LINE
  • TikTok
  • Linkedin
  • Medium
  • Pinterest
  • note
  • プレスリリースサービス
  • 純広告
  • ディスプレイ広告
  • リスティング広告
  • ネイティブ広告
  • Webメディア掲載
  • オウンドメディア
  • メールマガジン
  • オフライン/オンラインイベント
  • パンフレット
  • ポスター
  • 手紙
  • FAX
  • テレビCM
  • 交通広告
  • 業界紙・雑誌への広告出稿
  • コンテンツディスカバリーネットワーク
  • コーポレートサイト
  • オフライン/オンラインコミュニティ
  • キュレーションアプリ
  • ニュースポータルサイト
  • はてなブックマーク
  • コンビニ広告
  • POP

⑤無理のないスケジューリングをする

事業を展開していれば、多くの人が体験している「いや、このスケジュールはきつすぎる……」現象。

よりはやく成果を求めるあまりに、ついついタイトなスケジュールを引いてしまいがち。

(時には必要だけど、メンバーの合意がマスト)

特に社会的責任マーケティングの場合、外部ステークホルダーとのコミュニケーション、予定調整などもあるため、余裕をもった年間スケジュールを引くのをおすすめする。

タイトなスケジュールを引いて、「全然進捗ない」となり、モチベーションに悪影響を与えるケースもしばしばあるから注意しよう。

⑥役割を明確にし、メンバーが進捗状況を常に見えるようにする

プロトタイプカンバンボードをご存知だろうか?

プロダクトの試作品ともいえるプロトタイプをプロジェクトメンバーで制作していく際につかうツールだ。

プロトタイプカンバンボード

使い方はさまざまだが、私がおすすめするのは、社会的責任マーケティングでも実施するまでの工程をいくつかに分けたカンバンボードを作成する。

そして、各工程内にポストイットなどで「だれが何をするか」を貼り出し、プロジェクトの進捗状況が常に分かるようにし、メンバーがいつでも見える場所に設置しておこう。

(もちろんクラウド上などでも可能)

カンバンボードを活用することで、全体の進捗と現状の課題を毎日すり合わせることができ、コミュニケーションが活性化する。また、メンバー間での認識のズレにいち早く気がつき、軌道修正しやすくもなる。

タスク管理であれば、「Trello」「Asana」「Notion」あたりを活用するのもおすすめだ。

もし導入方法が不明なら、いつでもお問い合わせからご相談していただければ、活用のヒントをお伝えします。

⑦施策やKPIの進捗が常に確認できるようにする(BIツールの活用など)

Excel、Googleスプレッドシート、Googleデータポータルなどのツールを使って、KPIの進捗が分かるようにしておこう。

⑥のカンバンボードと同様に、「目標と現状のギャップを把握し、ギャップをうんでいる要因が何で、とるべきアクションは何か」をよりスムーズにチーム内で共有できる。

BIツールなら、状況にもよるが、Googleデータポータルが無料で使え、Googleスプレッドシートなどとの互換性も無料で申し分ないのでおすすめだ。

その他のBIツールなら、ボクシルマガジンの「BIツール比較おすすめ27選 – 機能・導入ポイント【BIとは?図解】」が参考になるのではないだろうか。

取り組みの評価体制の構築

社会的責任マーケティングを実施するということは、カネ・モノ・ヒトなどの経営資源を投資することだ。つまり、投資した経営資源に対する収益予測やインパクトを評価することが欠かせない。

また、パートナー・ターゲットや投資家などのステークホルダーに実施した結果を報告する必要もある。

そのため、実施した取り組みを評価し、課題や改善アクションを検討していく必要があるのだ。

しかし、「社会的取り組みを評価する」領域はとても困難であり、時間もお金もかかってしまう。

ケースバイケースのことも多々あるが、本記事では、何をするにしても考えておかないといけないこと、選択した社会問題・社会的コーズの実態・課題に関する情報のアップデートについて解説する。

①取り組みを評価する目的を設定しておく

取り組みを評価するために、調査しないといけないことは多岐にわたる。

  • 取り組みの課題を特定し、どう改善すればいいかを明確にする
  • パートナーなどのステークホルダーに報告する
  • 投資の収益性を測定する
  • 選択した社会問題に与えられたインパクトを把握する
  • ホワイトペーパー 、レポートなどのコンテンツを制作して次回マーケティング活動に活用する

など取り組みを評価する目的は、状況に応じてさまざま。

とはいえ、どの目的によっても、調査するにはお金が必要だ。

調査会社に依頼したことがある人なら分かると思うが、一度調査するのに数十万円〜数百万円あたりかかってくる。

つまり、取り組みを評価する目的をしっかり設定しておかないと、不要な調査にお金などの経営資源を投下してしまい、費用対効果が低下する可能性があるのだ。

②取り組みが企業に与えるアウトカム(成果)を測定する

社会的責任マーケティングを実施しようと出したアウトプットに対する、アウトカム(成果)がどれほどだったかを測定していく。

たとえば、以下のようなアウトカムがあるだろう。

  • 企業イメージの向上
  • 企業・事業・商品ブランド認知の拡大
  • ステークホルダーの認識の強化
  • オペレーションの効率化
  • 従業員の満足度向上
  • 従業員の採用や離職に関する費用の削減
  • ステークホルダーとの関係性
  • 新規顧客獲得数/率
  • 顧客単価の増加
  • 売上の増加
  • メディア露出回数
  • ROSA・ROI

これらアウトカムを測定するためには、企業内の売上・顧客データ、GoogleGoogle Analytics・各デジタル広告媒体から得られるデータ、労務データ、外部機関から得られるデータ、調査会社から得られたデータなどを収集する必要がある。

これらデータを収集し、投資収益率を算出していこう。

理想は、取り組みをスタートさせる前に、ある程度事前に評価する指標や体制も含めてプランニングしておこう。

動き出してからだと、パワーかかる分、おざなりにされがちなため。

③取り組みが社会問題に与えるアウトカム(成果)を測定する

社会的責任マーケティングを実施した際は、当然ながら企業に与えるアウトカム(成果)だけでなく、取り組んでいる社会問題に与えるアウトカム(成果)も測定する必要がある。

主に測定する項目は、以下のようなものだ。

  • 社会問題における認識の変化
  • 社会問題に対する関心度合い
  • 社会的責任マーケティングを実施したことによる集められたボランティアの人数と、集まったボランティアの活動時間
  • 社会的事業や社会問題のために集められた資金の合計額
  • ターゲット層の行動変容割合

当然、取り組む内容によって、計測する指標は異なってくる。

しかし、大枠は上記のような観点で、計測する指標を決めて、モニタリングしていく。

社会的責任マーケティングにも一部関係する、取り組みを評価する手法である「社会的投資収益率(Social Return on Investment:SROI)」をご存知だろうか?

社会的インパクト評価ともいわれる、SROIは「担い手の活動が生み出す「社会的価値」を「可視化」し、これを「検証」し、資金等の提供者への説明責任(アカウンタビリティ)につなげていくとともに、評価の実施により組織内部で戦略と結果が共有され、事業・組織に対する理解が深まるなど組織の運営力強化に資するものです。」と定義されている(*2)。

つまるところ、SROIは、ソーシャルビジネスや社会的責任マーケティングを実施したことによる、社会的・環境的なアウトカム(成果)を評価する手法だ。

内閣府NPOホームページ

SROIに関する詳しいことは、内閣府NPOホームページの「社会的インパクト評価の普及促進に係る調査」にいくつも資料が掲載されているため、目を通してみてほしい。

④選択した社会問題の状況をアップデートできる体制を構築する

社会的責任マーケティングは、1〜3年スパンで実施されることが多い。そのため、経済状況などによって、選択した社会問題の要因構造や支援制度が変化する場合がある。

当然だが、要因構造が変化するということは、ターゲットが抱えている問題が変化したということだ。つまり、問題が変化したってことは、取り組む内容も改善しないと、問題を解決できないことを意味する。

プロジェクトメンバー内で、各々が情報収集し、プロジェクトメンバー内で情報を共有し、常に最新情報を入手できる体制をつくっておく必要がある。

私が社会問題の情報アップデートにしていることは以下のようなものだ。

  1. 内閣府ホームページ」、「首脳官邸ホームページ」の政策内容、報道発表、白書、議事録、報告書などに目を通す
  2. 特定の社会問題に関する各省庁のお知らせなどを見る
    ex.障害福祉の場合、厚生労働省のホームページを見る など
  3. Googleアラートで関連するキーワードを登録し、最新情報を知らせてくれるようにする
  4. Twitterで内閣府、各省庁、専門家のアカウントをフォローして、最新情報や考え方・アイデアを収集する
  5. Google Scholarで関連するキーワードを登録し、最新の論文・学術書をチェックし、気になったものを読む
  6. 国立国会図書館で特定の社会問題に関する書物などの情報がないかチェックする
  7. 特定の社会問題に関して活動している人、大学教授に最新情報をヒアリングする

社会問題の情報をアップデートすることは、PEST分析でもやるように、経済・政治・テクノロジー・社会が自社に与える影響の仮説を立て、事業内容や社会的責任マーケティングの取り組み内容をブラッシュアップするために必要なアクションだ。

経営層が先陣をきって社会的責任マーケティングに尽力する

私の個人的な意見だが、ソーシャルビジネスや社会的責任マーケティングは、CSR部署や広報・マーケティング部署ではなく経営層がフルコミットして、先陣をきってやるべきではないかと考えている。

なぜなら、経営層がソーシャルビジネスや社会的責任マーケティングに自社が取り組む大義を説いたり、情熱をそそがないと、継続的なアクションをするのが困難だからだ。

ケネス・コース・プロダクションのCEOは、社会的取り組みに対して以下のように述べている(*3)。

「地域社会への貢献活動や個人の活動として自然に始まった活動が、いまではわが社のトレードマークとなっている。わが社のコーズ・リレーテッド・マーケティングは期首の会議から始まる。その会議では、現在われわれにかかわりのあるものは何か、向こう数ヶ月にわたって重要であると思われるものは何かといった事項についてリストを作成する。解決策が見つからないとき、私はわめき、怒鳴り散らすが、最終的には疲れきって、他の参加者が同じように怒鳴り散らしているのをただ聞いている。部屋が静かになるのは、各人が考えていることをどうやったら適切に表現できるかを自問自答しているときだけである」

ケネス・コース・プロダクションのCEOのように、ソーシャルビジネスや社会的責任マーケティングを実施する際、どんな社会問題が自社に影響を与えるか、自社はどんなことをして社会的価値を生み出せばいいかなどを経営層がもっとも苦悩し、考え、頭や手足を動かすことが組織を強くする観点でも大事ではないだろうか。

【参考・引用元】

*1:Philip Kotler and Nancy R.Lee(2004).Corporate Social Responsibility: Doing the Most Good for Your Company and Your Cause Wiley.フィリップ・コトラー,ナンシー・R・リー 恩藏直人(監訳) (2007). 社会的責任のマーケティング 「事業の成功」と「CSR」を両立する 東洋経済新報社) pp.286−287

*2:内閣府「社会的インパクト評価について

*3:Philip Kotler and Nancy R.Lee(2004).Corporate Social Responsibility: Doing the Most Good for Your Company and Your Cause Wiley.フィリップ・コトラー,ナンシー・R・リー 恩藏直人(監訳) (2007). 社会的責任のマーケティング 「事業の成功」と「CSR」を両立する 東洋経済新報社) pp.301

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南 翔伍
南 翔伍
株式会社SHIRO 代表取締役。「貧困・虐待・非行の原体験 × ソーシャルビジネス経験」で社会問題解決に挑戦しつづける / 大学時代NPO法人と立ち上げた団体で貧困と障害をテーマに100名以上の子ども達を支援 / デジタルマーケティングのベンチャー企業での修行後、発達障害者支援をするソーシャルカンパニー、Web上で被害者と弁護士をつなぐリーガルテック企業でマーケティング責任者・事業統括マネージャーを務める / ソーシャルビジネス/社会的責任マーケティングに関する講演・ワークショップをしつつ、プラットフォームとWebメディアのグロースに専念